「視覚野細胞の機能推定法:個々の細胞は何を伝えているか?」

大澤五住

大阪大学 大学院生命機能研究科 脳神経工学講座


Abstract


 脳の機能についてのカジュアルな議論において、私たちはよく「この細胞は何をやっているのだろうか?」という問いを発する。この問いに対する答えを見つけるために、細胞がやっていそうな事の仮説をたて、それをテストするための実験をする。個々のテストは仮説と密接に結びついているため、あるテストからのデータで別の仮説を検証する事は一般には不可能である。例えば、一次視覚野の複雑型細胞の多くは、方位選択性、空間周波数選択性、運動方向とスピードに対する選択性、両眼視差選択性等、種々の機能を持つ。方位選択性のテストに使った実験データから、両眼視差選択性を推定することはできない。このような限界を超える方法はあるだろうか?特に、高次視覚領域の細胞については、細胞が何をやっているか、どのような計算を行っているかについて簡単に仮説を立てる事は難しいし、多くの個々の仮説についての多数の計測を行う事も、細胞からの記録時間の制限により厳しい上限が存在する。

 そこで、私たちは「細胞がやっていそうな事」に関する仮定をできるだけ含まない非常に汎用性の高い視覚刺激による、1回の実験データからできるだけ多くの仮説に対する答えを得るための手法を開発検討している。視覚刺激としては、両眼ダイナミック無相関ノイズを用い、様々な選択性に関する細胞の特性を推定する方法を提案する。細胞の機能に関する仮定はデータの解析過程に挿入されるため、1回の計測データから実験時には思いつかなかった細胞の機能に関する仮説も検証することが可能になる。このような解析を、簡単な実例を示しながら考察する。