大脳嗅皮質における左右嗅覚入力の切り替え

 

東京大学大学院・医学研究科・細胞分子生理学教室 

柏谷 英樹

 

 左右嗅粘膜は生理的条件下であっても交互に腫脹を繰り返し、腫脹側では鼻腔流量が低下することが知られている。鼻腔流量が低下すると嗅上皮への匂い分子の到達量が減少し、外界の匂い情報のモニタ能力が低下する。嗅上皮で検出された匂い情報は同側の嗅球、さらに同側の大脳嗅皮質へと伝えられ、同側性に情報処理される。では、嗅粘膜腫脹時のように片側の匂い入力が遮断されている時、遮断側の大脳嗅皮質では匂い情報処理は行われないのだろうか?

 本研究では、大脳嗅皮質の中でも左右間線維連絡が発達している前嗅核(Anterior Olfactory Nucleus: AON)に注目し、AONニューロンの左右鼻腔への匂い刺激に対するスパイク発火応答を調べた。左右鼻腔の分離刺激を行ったところ、およそ62%のAONニューロンは左右両側の刺激に応答することが明らかになった。また、同側刺激に対する応答は対側刺激に対する応答より強い傾向が見られた。

 次に、対側刺激に対するAONニューロンの発火応答の、同側鼻腔閉鎖前後での変化を経時的に調べた。同側鼻腔閉鎖前、AONニューロンは対側刺激には弱い応答しか示さなかったが、同側鼻腔閉鎖から数分の遅延の後、対側刺激に対する応答は著しく増強した。

 これらの結果から、大脳嗅皮質では同側性嗅覚系からの入力が遮断されると、対側嗅覚系の感覚入力を短時間で増強し、入力系を切り替えることで外界の匂い情報をモニタしていることが示唆された。