ミダゾラムによる大脳皮質第V層のGABA作動性シナプスにおけるa7ニコチン受容体の誘導

 

ミダゾラムは他のベンゾジアゼピン系薬物と異なり脳波所見上も比較的覚醒のパターンを示すこと、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬の投与により効果の一部がリバースされる。中枢神経系においてa7ニコチン性アセチルコリン(nACh)受容体は主にシナプス前に存在し、神経伝達物質の遊離を調節していることから、ミダゾラムがシナプス前a7 nACh受容体に関与しているのではないかと考え以下の実験を行った。

約2週令ラットの脳スライス標本を用い、大脳皮質体性感覚野第V層の錐体細胞にホールセルパッチクランプを行い微小シナプス後電流(mIPSC)を記録した。ミダゾラムの灌流投与によりmIPSCの頻度が増加した。しかし、他のベンゾジアゼピン系薬物では増加せず、ベンゾジアゼピンの拮抗薬の投与によっても抑制されなかったことからGABAA受容体以外を介した機序であることが示唆された。ミダゾラムによるmIPSC頻度増加作用はa7 nACh受容体阻害剤methyllycaconitineにより抑えられたが、ニコチン単独では増加しなかったことから、ミダゾラムによりa7 nACh受容体が細胞膜へ誘導され、内因性アセチルコリンによりGABAの放出頻度が増加したのではないかと考えた。機械的に急性に単離した錐体細胞に、a7 nACh受容体に特異的に結合する蛍光色素でラベルしたAlexa488 aブンガロトキシンを用いて調べたところ、ミダゾラムにより有意に細胞表面のa7 nACh受容体が増加するのが観察された。また、シナプス終末に特異的に取り込まれるFM1-43で共染色したところその増加したa7 nACh受容体の多くがシナプス終末に存在することが推測された。更に、ミダゾラムによるmIPSCの頻度増加作用はPKC阻害薬によって抑制され、PKCが関与していることが示唆された。また、この作用はGlutamate作動性神経や大脳皮質の他の層のGABA作動性神経では認められず、GABAニューロンのシナプス後nACh受容体にも作用しなかったことから、大脳皮質第V層のGABA作動性神経のシナプス終末に特異的に見られる現象であることが明らかになった。

ミダゾラムは大脳皮質第V層のGABA作動性シナプス前終末においてa7 nACh受容体の膜移行を誘導することによりGABAの放出頻度を増加させた。これはミダゾラムの鎮静作用に関する新しい機序の発見にとどまらず、GABA-コリン系を介した睡眠-覚醒サイクルを含む大脳皮質回路機能発現への全く新しいメカニズムの提案である。