「概要」

目的・実施内容:

 中枢神経系の最も重要な機能が大脳皮質とその関連する神経核に存在しているということについて、おおかたの神経科学研究者の見解は一致していると考えられる。実際、認知・感情・思考・記憶・意識など,科学的な立場からしても未だに神秘的に見える機能を実現している大脳皮質とその関連する神経核がいったいどの様な神経回路を使用しているのか、大きな興味が持たれるところである。

 本申請の研究会では、日頃から大脳皮質のニューロンとそれらが織りなす神経回路についてボトムアップ的に研究している研究者と神経回路のモデルを研究している人々に集まっていただいて、各自の最近の研究結果を発表し討論する機会を提供したい。加えて参加者が、本研究会の情報交換の中から次の大脳皮質研究のテーマを獲得し、それぞれの研究を発展させるアイデアを掴むことを希う。



開催の理由:

 金子・川口・姜・深井の4人は、例えば神経科学学会で大脳皮質の神経回路に関わるシンポジウムを実行したことなど、今までにも多くの協力をしてきている共同研究者です。こうした中で、これらの4人を中心に大脳皮質のニューロンと神経回路をボトムアップ的に研究している若手の(30代〜40代を中心に)研究者を集めて、情報交換の場を持ちたいと常々考えていました。

 生理研の研究会について、申請者は今までに「運動回路」「局所回路」あるいは「シナプス」等の研究会に参加させていただきましたが、たっぷりと時間をかけて密度の高い討議が実行できたという経験があります。こうした情報交換・討議は個人的にも研究の面で大きく役立ちました。そこで、今回は生理研教授の川口泰雄先生にお願いして、これまでと同様、参加者に有益な研究会を是非実行させていただきたく、ここに申請をします。

 最後にこれは大きな理由ではないのですが、最近若手の優秀な神経科学研究者が遺伝子工学を応用しやすい発生・発達神経生物学に流れてしまって、システム的神経科学に人材が集まってこないと痛感しています。そこで、今回申請するような研究会を中心にして、少しでもシステム的神経科学のボトムアップ的研究およびその研究者を活性化できれば幸いであるとも考えております。



これまでの成果・今後の目標:

 平成15年10月9〜10日には以下の5人の講演者の方々にお願いして、講演による話題提供と議論を行いました。生理研以外から約30人、生理研内から10数人といった参加者でした。 「大脳皮質視覚野5層錐体細胞の高頻度発火により誘発される抑制性伝達の可塑的変化」黒谷 亨氏はスライス標本を用いた抑制性シナプスの可塑性の講演で昨年の吉村先生の講演に連続的な話題が提供されました。「新規に発見された皮質−基底核回路における調節機構」古田貴寛氏は、Neurokinin B を利用する線条体から無名質への投射と Neurokinin B受容体を発現する無名質ニューロンから大脳皮質への投射の話しを、「線条体投射細胞の閾値下二状態遷移の検証」北野勝則氏には皮質線条体入力と線条体ニューロンの Up/Down states のホットな議論を提供していただきました。「大脳皮質ダブルブーケ細胞の形態的解析」窪田芳之氏あるいは「大脳皮質錐体細胞のsubsystem: zinc-enriched neural system」一戸紀孝氏の講演は大脳皮質の抑制性あるいは興奮性ニューロンの作る神経回路について主に形態学的な観点からの研究を述べていただきました。

 昨年と同じく主に30代から40代前半の講演者に現在進行形の話題を提供してしていただいて、参加者の多くが大脳皮質・線条体の神経回路について様々な議論を交わすことが出来ました。昨年より講演者を一人減らしたことによって予定時間をオーバーすることはありませんでしたが、議論は白熱して1時間の持ち時間のところを実質1時間半ずつ議論すると云った学会などでは出来ないレベルの密度の高い討議が出来たものと感じています。また、システム的神経科学をボトムアップの方向で研究するという意味で志を同じくする研究者が集まって議論を交わすことにより、新たな着想を得る、客観的な批判にさらされるなど大脳皮質・線条体研究の発展に役立つ様々な効果があったと思います。

 次回平成16年度は、大脳皮質を中心とした神経回路というテーマは今までと同様ですが、浜松医大・福田先生にお願いした人選を予定しており、今までとは少し趣の異なる会にしようと考えています。



開催後の報告:

 今年は浜松医大福田先生にオーガナイズをお願いして平成16年10月6〜7日には以下の5人の方々にによる話題提供と議論を行いました。「大脳皮質発達過程におけるGABA応答性の変化と制御機構」山田順子氏は、ラット生後間もない時期には大脳皮質細胞内の Cl 濃度が高く、GABAが脱分極性の反応を引き起こすこと、その原因としてNaKCC1 というCl 取り込みのトランスポーターが一過性に強く発現していることを示し、これと関連して「GABA性シナプス入力とGlutamate性シナプス入力の相互作 用の非 線形ダイナミクスとその数理モデル」森田賢治氏は脱分極性のGABA反応がもつシナプス伝達に対する影響を数理的に解析した議論を提供しました。「Depolarization waveによる中枢神経系の機能発達制御機構」佐藤勝重氏は胎児期に脳幹全体に広がるゆっくりとした脱分極波が存在することを示し、その役割についての議論を誘い、「From neural stem cell to the human neocortex」玉巻伸章氏は大脳皮質のニューロンの発生の総括的な話しを自分の仮説を中心に提供しました。「視床微小神経回路における情報処理機構」井上剛氏は minimal 刺激 + double whole-cell clamp 法を用いて、視床あるいは大脳皮質の局所神経回路の解析結果を報告しました。

 昨年・一昨年と同じく主に比較的若い講演者に現在進行形の話題を提供してしていただいて、参加者の多くが大脳皮質・視床・線条体の神経回路について様々な議論を交わすことが出来ました。議論は白熱して1時間の持ち時間のところを実質1時間半ずつ議論すると云った学会などでは出来ないレベルの密度の高い討議が出来たものと感じています。また、システム的神経科学をボトムアップの方向で研究するという意味で志を同じくする研究者が集まって議論を交わすことにより、新たな着想を得る、客観的な批判にさらされるなど大脳皮質・視床・線条体研究の発展に役立つ様々な効果があったと思います。


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