「大脳皮質視覚野5層錐体細胞の高頻度発火により誘発される抑制性伝達の可塑的変化」

黒谷亨、小松由紀夫

名古屋大学環境医学研究所 視覚神経科学

 

 我々は近年、視覚野5層のニューロンを通電により高頻度発火させると、その細胞に生じるIPSPに長期抑圧(LTD)が誘発されることを見いだし、その特徴を報告した。このLTDには、1)シナプス後細胞の高頻度発火により生ずる、2)誘発には少なくともL型電位依存性Caチャネルの活性化による細胞内Ca濃度の上昇が必要である、3)シナプス後細胞でのGABAコンダクタンスの減少を伴う、などの特徴がある。今回、その発現メカニズムをIR-DIC観察下でスライスパッチを行うことにより、詳細に検討した。

 実験には生後20から30日齢のSDラットの視覚野から切り出した、厚さ300μmの前額断スライス標本を用いた。興奮性伝達をDNQX及びAPVで抑制した後、4層刺激により誘発されるIPSCを、5層の錐体細胞からwhole cell記録した。高頻度発火によるLTDを再現するために、-70mVに膜電位固定した状態から、20msec、70mVの脱分極パルスを20Hzで5秒間与え、これを10秒ごとに30回繰り返すと、IPSCの振幅は脱分極刺激前の75%までに減弱した。LTD誘発前後でのIPSCの逆転電位は変化せず、GABAコンダクタンスが減少した。また、パッチ電極を介して細胞内にBAPTAを負荷すると、LTD誘発は阻害された。さらに、nifedipineを細胞外液に投与してもLTD誘発は阻害された。これらは、上述のIPSPのLTDの特徴によく一致する。

このLTDにはさらに、1)細胞体部に電気泳動的に与えたGABAに対する応答にも、脱分極パルス後にLTDが生じる、2)LTD誘発前後で、IPSCのpaired-pulse ratioは変化しない、3) LTDのmagnitudeに対し、LTD誘発前後のIPSCの変動係数の2乗の逆数比をプロットすると、多くが傾き1の直線の周囲に集まる、などの特徴が見られた。これらの結果は、シナプス前部あるいは後部で、LTD誘発に伴い、機能的シナプスのサイレント化が生じていると仮定すると、矛盾なく説明できる。この可能性について検討したところ、以下の結果を得た。1)抑制性介在細胞と思われる非錐体細胞、及び錐体細胞からdouble whole cell記録を行い、介在ニューロンの通電発火により、錐体細胞に生じるunitary IPSCを記録した。錐体細胞に脱分極パルスを与えたところ、ユニタリIPSCのfailure rateが増加した。2)テトロドトキシン存在下で錐体細胞から記録を行い、細胞体部へGABAを電気泳動的に、0.5Mのsucrose溶液をpressure ejectionにより投与し、GABA応答にLTDが生じたときに、sucroseにより誘発されるminiature IPSCの振幅を計測したところ、その振幅ヒストグラムは変化しなかった。これらの結果とGABA応答にもLTDが生じることを考え合わせ、シナプス後部でサイレント化が生じている可能性について、さらに検討した。

 GABAA受容体の細胞内への内在化には、clathlin依存性のエンドサイトーシスの関与が報告されているので、パッチピペットを介して種々の阻害剤を錐体細胞に負荷し、その効果を調べた。1)dynaminとamphiphysinの結合を阻害するペプチドを負荷すると、LTD誘発は阻害されたが、スクランブルしたペプチドには、その効果がなかった。また、GDP-βSの負荷によっても、LTD誘発は阻害された。2)PKCの阻害剤であるPKC fragment[19-31]、セリン‐スレオニンキナーゼの阻害剤staurosporineを負荷すると、LTD誘発は阻害された。

 以上の結果から、脱分極パルスにより誘発されるIPSCのLTDには、クラスリン依存性のGABAA受容体の内在化が関与していると考えられる。またこのLTDは、シナプス後部における機能的シナプスのサイレント化により発現することが示唆される。