「大脳皮質錐体細胞のsubsystem: zinc-enriched neural system」

一戸紀孝

理化学研究所・脳科学総合研究センター・脳皮質機能構造研究チーム

 

亜鉛イオン(Zn2+)は、大脳皮質で皮質間結合をになう一部のグルタミン酸作動性のシナプスに含まれ、活動依存性にシナプス間隙に放出され、神経調節物質として働いていると考えられている。また興奮性細胞死、アルツハイマー病に関与することも示唆されている。我々はZn2+の分布をサル大脳皮質において調べ、また、sodium selenite (SS)脳内注入法によりZn2+陽性終末の起始細胞分布も調べた。(1) Zn2+は記憶、学習、情動に関与すると考えられている辺縁系皮質に高密度に見られた。この皮質群には海馬体、内嗅皮質、周嗅皮質、梨状皮質、側頭極、無顆粒性島皮質、前帯状皮質、後部眼窩皮質が含まれる。他の皮質はこれらの領域から離れるに従いZn2+密度は低くなる傾向が見られた。また、抑制性interneuron 由来と思われるparvalbumin陽性神経要素の染色密度はZn2+密度と逆のグラデーションを示した。領域による情報処理様式の違いを反映している可能性がある。またZn2+密度の高い領域はてんかん、アルツハイマー病、統合失調症において脆弱な領域であり、Zn2+がこれらの疾患の病態生理に関与している可能性を示唆する。(2) 我々は物体認知に関与していると考えられているサル下側頭葉(TE)にSSを注入した。ラベルされた神経細胞はTE野自体のみならず、TE野にfeedback投射を送る辺縁皮質(周嗅皮質、側頭極)に見られた。しかし、feedforward投射を送るTEO, V4にはほとんど見られなかった。Zn2+の終末は辺縁皮質からの出力において優位に使われている可能性がある。(3) Zn2+の染色はしばしば大脳皮質のmodule構造を染め出すのに用いられてきた(例:齧歯類barrel cortex)。我々はサル大脳皮質の広い領域において1,2層の境界にZn2+の染色で染め出されるpatch状またはhoneycomb状の構造を見いだした。patchの間隔は一般に100 m程度であるが、辺縁皮質とりわけ内嗅皮質、梨状皮質の近傍においては170-300 m間隔のpatchが見られた。この構造は以前我々がラットV1で報告した1,2層境界のhoneycomb構造と同様の構造であると思われる(Ichinohe et al., 2003)。これまでdivergentでdiffuseな神経伝達が支配的と思われていたこの層にも何らかの機能構造があることを示唆すると思われる。