上丘を介する脳幹運動機構制御の形態学

島根医科大学 解剖学第二  安 井 幸 彦


  前回の研究会では、顎顔面運動核の premotor neuron pool である下位脳幹の小細胞性網様体への上位中枢(大脳皮質と大脳基底核)からの投射経路−すなわち、大脳皮質顎顔面運動野からの直接投射路と、大脳基底核の主要な出力部位の一つである黒質からの直接投射路および上丘や赤核を介した間接投射路−について報告した。また、大脳皮質顎顔面運動野が上丘にも投射していることを述べた。今回は大脳皮質および黒質から上丘を介した小細胞性網様体への投射路について、さらに形態学的に追求したので、その結果を報告したい。
  まず、ビオチン化デキストランアミン(BDA)による順行性標識法とコレラトキシンサブユニットB(CTb)による逆行性標識法を同一ラットで併用することによって、小細胞性網様体 へ投射する上丘ニューロンの分布域と、黒質網様部背外側部あるいは大脳皮質顎顔面運動野からの投射線維の終末野との重なり具合を光顕的に検索した。その結果、小細胞性網様体 へ投射する上丘ニューロン(CTb 標識)と、大脳皮質あるいは黒質からの線維終末(BDA 標識)の分布域の一致を上丘中間層から深層にかけての最外側部に認めた。
  つぎに、これらの上丘ニューロンと投射線維終末との間に形成されるシナプス構築を同様の標識法併用によって電顕的に観察した。ただし、この場合にはよりよい微細構造を得るために、逆行性標識物質として CTb の代わりに WGA-HRP を用いた。黒質からのBDA標識終末は多形性のシナプス小胞を含み、WGA-HRPに標識された上丘ニューロンの細胞体や樹状突起に対称性のシナプスを形成していたのに対して、大脳皮質からの標識終末は球形のシナプス小胞を含み、樹状突起に非対称性のシナプスを形成していたが、細胞体とのシナプス形成は観察されなかった。また、樹状突起におけるシナプス形成では、大脳皮質からの終末は黒質からのそれよりもより細い突起に終止する傾向がみられた。すなわち、大脳皮質からの線維終末がシナプス結合していた樹状突起の直径の平均値が 0.57 ± 0.18 μm (n = 75) であったのに対して、黒質の場合のそれは 1.58 ± 0.67 μm (n = 54) であった。
  以上のように、大脳皮質顎顔面運動野および黒質網様部背外側部からの投射線維は単シナプス性に小細胞性網様体に投射する上丘ニューロンと結合していることが証明された。また、大脳皮質および黒質からの線維終末が上丘ニューロンとの間にそれぞれ形成するシナプス結合様式は、大脳皮質からの興奮性入力と黒質からの抑制性入力を反映しているものと考えられ、顎顔面運動の発現や制御において、上丘最外側部ではこれらの入力の統合が行われていることが示唆された。
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