線条体の局所回路・投射ニューロンの分類

京都大学大学院 医学研究科 脳統御医科学系専攻
高次脳科学講座 高次脳形態学研究領域
金子武嗣・李 泰喜


1)ラットの線条体スライスを用いて細胞内記録・染色法と免疫染色組織化学法を組み合せて、線条体内の局所回路を検索した。まず、前もって黒質に Tetramethylrhodamine-dextran amine (TMR-DA) を注入し、線条体黒質投射ニューロンを標識しておく。そうしたラットの脳を 500μm 厚のスライスにし、Biocytin を充填したガラス微小電極を線条体ニューロンに刺入する。カレントクランプ法による通電によって細胞内記録を取った後、Biocytin を電気的に注入し、スライスを固定する。固定したスライスを 30μm に再切し、まず、蛍光法を用いてBiocytin を注入した細胞が黒質へ投射するニューロンであるかどうかを確かめる。その後、Biocytin を黒く可視化して特に線条体内の軸索側枝に注目する。一方で、Substance P receptor (SPR) を免疫組織化学法で赤く染色する。SPRは線条体内のコリン作動性ニューロンとソマトスタチン作動性ニューロンに樹状突起に特異的に発現している受容体である。
  このようにして、線条体黒質投射ニューロンからSPR陽性内在性ニューロンへの入力を見ると、軸索側枝の全 bouton の16%がSPR陽性ニューロンへ入力していた。一方、コリン作動性ニューロンの軸索側枝の bouton からの入力は高々6%であった。SPR陽性ニューロンの総数が線条体ニューロンの3%にしか達しないことを考えれば、黒質投射ニューロンが選択的にSPR陽性ニューロンに入力していると考えられる。また、線条体黒質投射ニューロンは Substance P (SP) を産生しているがそのターゲットの黒質にはSPRが全く発現していない。したがって、線条体黒質投射ニューロンの産生するSPの働く部位はその軸索側枝が選択的に入力しているSPR陽性内在性ニューロンであろう。

2)線条体の投射ニューロンを化学的に分類する目的で preprodynorphin (PPD)、preproenkephalin (PPE)、preprotachykinin A (PPT) のC末端を認識する抗体を作製した。これらの抗体は主として多くの中型線条体ニューロンの細胞体を染色した。2重蛍光染色法を用いて、PPEは線条体ニューロンのほとんどでPPDあるいはPPTと共存しないこと、PPD発現ニューロンはPPT発現ニューロンの一部に含まれることを確認した。コリン作動性等の内在性ニューロンにはまったくこれらの免疫活性は認められなかった。さらに、TMR-DAの逆行性標識法と組み合せて、黒質投射ニューロンのほとんどがPPT陽性であり、40%がPPD陽性であること、逆にPPEはほとんど黒質投射ニューロンに認められないことを見た。淡蒼球投射ニューロンの85%がPPE陽性、10%がPPT陽性、6%がPPD陽性であった。したがって線条体投射ニューロンは大きく2群に分類される。すなわち(1)淡蒼球にのみ投射し、Met-enkephalin を使っているニューロンと(2)主として黒質に投射しSPを、部分的には Dynorphin / Leu-enkephalin を使用するニューロンである。こうした投射ニューロンのマーカーを1)のスライスの実験系に応用して線条体の局所回路を将来検索する予定でいる。


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