神経細胞の変性を選択的に誘導するimmunotoxinは順行性トレーサーとして有効か


1東邦大学 医学部 医学科 解剖学講座 生体構造学

○村上 邦夫1


神経細胞は多種多様の伝達物質を有し、標的細胞に特定の影響をもたらしている。従来から、特定の神経回路の機能や神経病変による影響を分析する手段には、トレーサーを用いた神経回路の解析や神経損傷に誘導される行動障害の調査などがあり、長くこれらに依存してきた。しかしながら、従来のトレーサー注入や薬理的神経毒または電気的に神経損傷を起こさせる技術は、神経細胞が複雑に混在する部位に適応する際、さまざまなニューロンにトレーサーの取り込みや破壊をもたらし、特定の神経細胞に限定した軸索輸送や障害を誘発することが困難であった。このことから、異なる伝達物質を有し同じ部位に投射するニューロン群に対し選択的にトレーサーを取り込ませ、あるいは選択的な破壊ができる革新的な技術が望まれてきた。1990年頃に開発されたImmunotoxin はこの要求に適しており、神経行動科学の研究では、特定の伝達物質を持つ神経細胞の損傷で生じる行動異常の解析に導入された。特に192IgG-saporinは解剖学的な裏づけのもとで、前脳基底部(BF)コリン作動性細胞障害モデルとして多くの行動科学の研究に用いられてきた。発表内容は、192IgG-saporinBF内に混在する細胞群の中からコリン作動性細胞の変性を誘導し、皮質投射する変性軸索終末と逆行性標識した皮質標的細胞との関係について報告し、加えて、Immunotoxinを順行性トレーサーとして導入する際の利点と欠点について示したい。