平成20年解剖学会総会 神経解剖懇話会演題

 

帯状回後部から見た記憶の神経機構

 

防衛医科大学校 解剖学講座

小林 靖

 

 帯状回後部は、脳梁の後半部を上と後から取り囲む皮質領域である。ヒトでは帯状回後部の障害によって、左に損傷があれば言語情報を中心とした健忘症候群が、右に損傷があれば地誌的障害(一種の空間認知と記憶の障害)が起こると報告されている。しかしながら、辺縁系皮質に関する近年の研究は海馬に大きく偏っており、帯状回についての知見はいまだ限られている。われわれはこの帯状回後部に注目し、霊長類においてその細胞構築を見直し、そこに含まれる各領野の入出力の解析を進めてきた。

 帯状回後部は大きく分けて脳梁に近い側に位置する脳梁膨大後皮質Retrosplenial cortex (Area 29, 30)と後帯状皮質Posterior cingulate cortex (Area 23)に区分される。脳梁膨大後皮質が最も密に結合を持つのは側頭葉内側部、ついで前頭前野である。後帯状皮質はそれに対して頭頂葉(下頭頂小葉後部)との結合が最も多く、ついで前頭前野と密に結合している。視床との結合でも、脳梁膨大後皮質がおもに視床前核と連絡するのに対して、後帯状皮質は視床枕とより密に連絡する。

 帯状回・側頭葉内側部・視床前核に乳頭体を加えれば、いわゆるPapezの回路の構成要素が揃う。Papezはこれを情動に関係する回路と考えたが、現在ではこれらの各要素が長期記憶の形成に重要な役割を果たすことが明らかになっている。ここでは最近の知見に基づいて、(1)この伝導路系が古典的なPapez回路とどのように異なるのか、(2)その中での帯状回後部の役割は何かについて検討したい。

 


小林 靖 略歴

19622月生

19863     東京大学医学部医学科卒業

19864     東京大学大学院医学系研究科博士課程入学 (873月中退)

19874     東京大学医学部脳研究施設脳解剖学部門 助手

19951     杏林大学医学部解剖学第一講座 講師

199610- 19989月 カリフォルニア大学デイビス校精神医学部門・神経科学センター 客員研究員

199910    杏林大学医学部解剖学第一講座 助教授

20034     防衛医科大学校解剖学第二講座 教授

                   2006年より解剖学講座に名称変更)

現在に至る。