Department of Morphological Brain Science,
Graduate School of Medicine, Kyoto University

研究室紹介


教室の歴史

本領域は明治 32 年、本邦解剖学の初期にあたり、鈴木文太郎初代教授(明治 32 年 10 月より大正 10 年 1 月まで)のときに解剖学第一講座として出発しました。鈴木教授は人体系統解剖学、局所解剖学、組織学、美術解剖学、人類学等に関する多くの著述を世に出し、本邦解剖学の初期の発展に大きく寄与しました。

小川睦之輔第 2 代教授(大正 10 年 6 月より昭和 21 年 2 月停年退官まで)は、主として両棲類を用いて発生学的研究を行いましたが、続く平沢興第 3 代教授(昭和 21 年 7 月から昭和 32 年 12 月京都大学総長就任まで)の代から中枢神経系の解剖学を専ら研究する教室として確立することになりました。平沢教授は主として中枢神経系の細胞構築、特にその層構造の研究に力を注ぎ、京都大学解剖学教室における系統的な脳研究を始め、次の岡本道雄第 4 代教授(昭和 34 年 12 月より昭和 48 年 12 月京都大学総長就任まで)は、中枢神経系の神経線維連絡と細胞構築の研究に力を注ぐとともに、組織培養や組織科学等、新しい研究方法の導入につとめ、京都大学医学部附属脳研究施設の設立にも尽力しました。

水野昇第 5 代教授(昭和 50 年 4 月より平成 9 年 11 月まで、平成 9 年 12 月から平成 15 年 3 月まで東京都神経科学総合研究所所長、平成 15 年 4 月から生理学研究所所長)は、主として中枢神経系のニューロン連絡の解析の研究に力を注ぎ、数多の業績を残しました。現在は金子武嗣第 6 代教授(平成 10 年 8 月より)が教室を主宰していますが、本教室は第二次世界大戦後初期の平沢第 3 代教授から現在の金子第 6 代教授に至るまで、半世紀以上にわたり一貫して神経形態学を専攻する研究室として継続していることになります。

平成 2 年 6 月に脳統御医科学系専攻・高次脳形態学講座として独立専攻の大学院講座に改組し、さらに平成 7 年 4 月には京都大学医学部全体の大学院医学研究科への改組に伴い、脳統御医科学系専攻・高次脳科学講座・高次脳形態学領域として名称を変え、研究室の指向性をより明確にしました。平成 18 年 4 月から、さらなる医学研究科の改組があり、医学専攻・高次脳科学講座・高次脳形態学領域となります。





教育活動について

学部生・大学院学生の両方に対して主に中枢神経の形態学を講述し、大学院学生には同分野の研究の指導をします。


医学部生への教育:

A7a 神経科学(Neuroscience)

中枢神経系は現代科学でも未だに神秘的に見えてしまうほどの高次機能を実現している。認知・思考・言語・記憶・意識・感情など情報処理というコンセプトをはるかに超えた機能を、わずか 1 kg 余りの脳が1kHz 程度の低速素子を用いて実現しているのは驚くべきことである。この神経系の仕組と働きを理解することは、精神医学・神経内科学や脳神経外科学は云うまでもなく、その他の臨床科目においても、疾患の診断と治療を行うには必須である。本教科ではそのための基礎的知識を習得することを目的とする。

最初に神経系の構成と働きの全体像を総論で概観したのち、部位別にみた形態と機能の連関を脊髄、脳幹、小脳、間脳、大脳基底核、辺縁系、大脳皮質のそれぞれについて学習する。その後に、運動系・感覚系といったシステム別にその複雑で多様な神経機構を学び、またその神経機構が固定された不変のものでなく可塑的に変化しうるものであることを理解する。

なお、A7a 神経科学の内、形態学の部分は高次脳形態学講座(金子研)が担当し、神経機能の部分については認知行動脳科学講座(河野研)が責任を持つ。

A7b 脳実習(Brain Dissection)

A7a の神経科学の前半で脊髄から大脳皮質まで学んだことを踏まえて、実際のヒトの脳を肉眼的に観察し、神経核等の立体的な位置関係の理解を深める。神経系を理解するためには神経の連絡の有り様を知ることが重要であるが、残念ながら神経連絡の在り様について実習観察から直接見いだされることは多くない。実際の脳の構築をA7a神経科学の知識とすり合わせながら、神経系がその多様な機能(運動、視覚、聴覚、体性感覚等)に応じてシステムとして連絡・構成されていることを想像出来るようになってほしい。

各班(6~7 人)に1つずつ剖検脳を与えられ、シラバスと実習書に沿って脳を解剖し、肉眼あるいはルーペ下に観察することによって実習を進める。

*「シラバス」とは、教科書でもなければ解説書でもありません。学ぶべき(あるいは教えるべき)内容を単純に列挙したもので、教える側と教わる側の間に交わされる一種の契約書です(ただし、講義等では手に入れることの難しい図譜などを加えて配布しています)。従って、講義・実習・参考書等による学習が主要なものであることに変わりはありません。 講義・実習のシラバスの図の PDF file はここにあります(ID とパスワードが必要です)。

大学院生への教育: 

中枢神経系あるいは脳の最も重要な機能が大脳皮質に存在しているということについては多くの神経科学者の意見が一致している。認識、感情、思考、意識など、科学的な立場からしても未だに神秘的に見える機能を顕現できる大脳皮質は、いったいいかなるロジック・作動原理を使用しているのであろうか。この疑問に対するアプローチとして、本研究領域ではボトムアップの研究方法を採る。具体的には、大脳皮質のニューロンを神経伝達物質・受容体等の機能物質で分類し、分類されたニューロン群の間に構成される神経回路を探る。方法的には、従来の神経形態学的手法(免疫染色法、電子顕微鏡、順行性・逆行性標識法)に加えて、細胞内記録・染色による電気生理学的手法、ウィルスベクターやトランスジェニックマウスなど遺伝子工学を応用した手法を駆使して大脳皮質の局所神経回路網の解析をする。また、大脳皮質に直接関係する神経組織、たとえば視床・基底核などを含めた神経回路の解析も並行して行っている。将来、これらの基礎データを元に大脳皮質のモデルを組み立てて、その神秘的な機能の本質に迫りたい。

教室内では、上記の中心的なテーマに加えて、大脳皮質の発生・発達の形態学的研究、大脳基底核の神経回路の研究等が行われている。したがって、中枢神経系の構成についての全般的な知識と、それらを研究する上での方法論について指導する。

修士課程

講義: 人体高次機能学。A7a 神経科学の講義に準じる。

博士課程

講義: 中枢神経系の形態学に関する最近の知見、および神経解剖学の方法論について論述する。

演習: 中枢神経系の形態学に関する重要なあるいは最新の文献の内容を検討する。加えて、研究者各自の研究内容の発表と討議を行う。

実験実習: 神経標識法、免疫組織化学法、電子顕微鏡、細胞内染色法、ホールセルクランプ法、遺伝子工学等を用いて中枢神経系の回路網を研究する。






研究活動について


現在の研究の概要 (090210 改訂)

中枢神経系は、認識・思考・感情・記憶・意識など人類が未だに理解できないでいる機能を実現しています。私達の研究室では、こうした神経系の働きを、物質的・形態的な基盤に基づいてボトムアップに理解しようとしています。人を含む哺乳類の中枢神経系には一定のデザインがあり、そのデザインの上を走る作動原理があって、それが脳の高次機能を実現していると考えるからです。

具体的には、まず個々のニューロン素子について、その伝達物質や受容体の存在様式を形態学的手法によって明らかにします。その上で、神経回路網の性質を調べることにより、すなわちニューロンの連絡・局所神経回路・シナプス結合およびその可塑性・発生発達などを解析することにより、高次脳機能を実現している神経回路網の作動原理を明らかにしようというわけです。脳の作動原理は、その神経回路網の設計図に書き込まれているはずであり、慧眼をもってすれば必ずや見抜くことができると信じています。


1.金子 武嗣: 中枢神経系の作動原理

Operating principle of the central nervous system

from One to Group

形態学的なシステム神経科学の研究は、逆行性および順行性のニューロントレーサー・免疫組織化学法・in situ hybridization 組織化学法等の導入によって 1970年代および 1980 年代に大きく発展しました。これらの手法を用いた研究により、私達は現時点において、局所神経回路に関する知見を除いて、中枢神経系のニューロン連絡あるいはニューロンの化学的特性について多くの情報を持っています。したがって、局所神経回路はシステム的神経形態学において最後の謎であるといえるかも知れません。そして、この謎に一番大事な秘密がありそうだということは、コンピューターのアナロジーで考えますと明らかです。すなわち、今の私達はロジックボード(マザーボード)上の大まかな配線は見えているものの、肝腎の CPU の中の配線図は見えていない状態にあると言えます。ですから、私達はまずこの局所神経回路のグランドデザインを遺伝子工学を用いて明らかにしたい、そして次にはそのデザインに基づいた神経回路網の動作をシミュレーションしてみたいと考えています。さらに最後にはシミュレーションモデルからの予測を実際の電気生理学的実験で検証するといった研究スキームを目指しています。 こうした私達の研究が基礎となって認識・思考・感情・記憶・意識などの高次脳機能(精神現象)の作動原理を明らかにできることを願っていますし、将来、21 世紀が脳機能の解明を達成した世紀であったと言われるようにしたいと希っています。



2.古田 貴寛: げっ歯類ヒゲシステムを題材としたシステム神経科学:感覚情報処理と運動制御機構の統合的理解を目指して

System neuroscience of the rodent whisker system: with the aim of understanding the mechanisms of the integration of sensory processing and motor control

3. 松田 和郎: 大脳基底核の神経回路とパーキンソン病

Neuronal circuits of the basal ganglia and Parkinson's disease

4. 日置 寛之: 中枢神経系における神経回路構造 〜入出力幾何学〜

Neuronal circuits in the CNS ~Input-output geometry~

5.中村 公一: 視床運動核が運動に果たす役割

The role of the motor thalamus in movement


業績/文献 Publications