「大脳皮質の局所回路」シンポジウム企画時の口上:

中枢神経系の最も重要な機能が大脳皮質に存在しているということは多くの神経科学研究者の一致する見解であり,大脳皮質のハードアーキテクチャーならびに作働原理を明らかにすることはその機能を理解するために不可欠のことと考えられます。しかし、近年、分子生物学的手法が花盛りで、その応用として分子・細胞レベルの発生・発達神経生物学が隆盛になり、ややもすると従来のシステム論的観点の研究が神経科学の分野でも等閑にされつつある傾向が感じられます。そこで、大脳皮質というシステムの研究分野の現状と展望を多角的に明らかにする事を目的とし、幾ばくかの宣伝効果をも期待して、今回このシンポジウムを企画しました。

従来の in vivo の大脳皮質研究法に加えて、近年、脳スライスを用いた実験法が導入され、大脳皮質局所回路の研究法に大きな可能性が生じてきています。理論研究者の田中繁氏を除く4人の演者は大脳皮質スライスを使用し、それぞれ電気生理学的・形態学的・光学的手法を用いて、大脳皮質の回路を明らかにしようと実験に取り組み、業績を挙げつつあります。川口泰雄氏はパッチクランプ法等を用いて大脳皮質の構成要素であるニューロンの電気的・形態学的・化学的分類を手がけており、金子武嗣は細胞内染色・免疫組織化学・トレーサー標識法などを応用して大脳皮質ニューロン間の皮質内連絡様式を調べています。姜英男氏は大脳皮質ニューロンにおける近傍刺激に対するシナプス応答の解析により皮質内回路を研究しております。谷藤学氏には Optical Recording 法をもちいた研究により明らかになった皮質内回路の興奮伝播の仕方について述べていただけます。これらの、最近の実験的成果を踏まえた形で、田中繁氏には大脳皮質理論・モデルの現状と将来の展望、実験的研究との関わりについて解説をお願いします。

演者には40歳前半までのアクティビティーの高い研究者を集め、大脳皮質のシステム的理解という(原則的には分子生物学的な脳の理解よりも大切な)未完のテーマについて熱く語っていただき、もって後進の若い研究者を刺激し、この重要な分野に引き込む縁(よすが)となることを期待します。
(文責、金子武嗣)


シンポジウムの主題紹介(神経科学ニュースと学会プログラム前頁に掲載):

中枢神経系の最も重要な機能が大脳皮質に存在していると多くの人が考えていますが,その機能を真に理解するためには大脳皮質のハードアーキテクチャーならびに作働原理を明らかにすることが不可欠でありましょう。今回のシンポジウムは大脳皮質の局所回路を電気生理学的実験・形態学的解析・光学的手法・理論的研究など多角的な観点から議論しようという試みです。特に、大脳皮質のユニットと考えられるカラムモジゥール内あるいはその近傍における上下方向の情報処理の仕組に焦点を当てたいと考えています。
(文責、金子武嗣)


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