中村さん:


同じキャンパスで仕事をしております生命科学研究科の中村岳史と申します。


はじめまして。


私は自分を分子神経科学者と規定しており、先生の「システム論的研究のすすめ」でいわば仮想敵となっている輩です。

私は80年代に物理学を学び、その後神経系の研究を志しました。当時、第5世代コンピュータなどAIの話題が身近にあふれておりましたが、私自身は「シリコンで意識ができる」ということに対する違和感から抜け出られませんでした。むしろ私を魅了したのは、「素子(ニューロン)のレベルで意識につながる何かが創発しているのではないか」という漠然とした想いでした。

そこを一番切れ味のいいメソッド(分子生物学)で自分なりに掘っていこうという気持ちが現在までつながっております。


メソッドとしては否定するつもりは毛頭ありません。わたしどもも遺伝子工学を使い倒そうとしております。


そういった背景から、私は分子神経科学者ではありますが、システム論を強調される金子先生に共感を覚えました。

先生は「素子(ニューロン)のレベルで意識につながる何かが創発しているのではないか」という仮説に対してどう思われますか。ペンローズの言葉を借りると以下のような言説になるのでしょうが。


素子(ニューロン)のレベルで創発しているとしますとゴキブリにも意識があるということになります。まあ、そういうレベルの意識があってもよいですが、私が対象としたい意識現象ではないですね。

したがって素子のレベルに的を絞るのは戦略的間違いだと思います。私の感じではネットワークレベルで創発されてくるものだと考えます。それも小脳障害や基底核障害は意識障害になりませんので、小脳や基底核のネットワークではありません。的を絞るならば、意識現象は大脳皮質・視床系のネットワークが作り出しているものだと考えます。おそらく、脊椎動物門のどこかで、大脳皮質・視床系に意識現象が創発され、それを発達させた系が哺乳類の脳ということになるでしょう。


「ペンローズが、意識に量子力学が関わっているとする根拠は以下である。意識には計算不可能なプロセスが関わっている。古典的法則には、計算不可能なプロセスは含まれていない。一方、量子力学の波動関数の収縮には、計算不可能なプロセスが含まれている可能性がある。他に計算不可能なプロセスがある可能性がないのだから、意識には量子力学が関わっていなければならない」

システム論的実験研究者と分子神経科学者がますます切磋琢磨できる未来を期待しております。

中村岳史拝


古典系でもカオスなどは計算不可能なプロセスになってしまうのではないでしょうか?


1950年代でしてでしょうか、生命現象が神秘的だった時代には量子生物学などというものを標榜していた人たちもいました。しかし、いまからみると生命現象を語る言語に量子力学は不要なことは明らかです。

意識現象の理解に量子力学は本当に必要になのかどうか、個人的には否定的です。確かに意識現象を語れる言語は今のところありません。しかし、量子力学がその言語であるとも思いません。それよりも意識現象を記述できる新しい数学が必要だと考えております。非常にシンプルなネットワークですが、

http://www.mbs.med.kyoto-u.ac.jp/cortex/20_Corticothalamic_loop.pdf

に内的時間演算子の導入を説明してあります。

この辺から突破していくのかなと愚考する次第です。


それでは。

金子 拝。